痛みと不安に配慮した外科治療
「口腔外科」と聞くと、「手術」「抜歯」「痛い」「怖い」といった、ネガティブな言葉を連想される方が多いかもしれません。
特に、お口の一番奥に潜む「親知らず」の抜歯は、多くの方が強い不安や緊張を感じる治療の代表格と言えるでしょう。
まず、私たち当院から皆様にお伝えしたい大切な基本方針があります。
それは、当院が「ご自身の歯を可能な限り抜かずに、長く健康に保つこと」を、すべての治療における大前提としているということです。
たとえ親知らずであっても、まっすぐに生え、噛み合わせとして正常に機能しているのであれば、無理に抜歯をおすすめすることは決してありません。
しかし、残念ながら、お口全体の将来的な健康を守るため、あるいは現在起きている問題を根本的に解決するために、外科的な処置が避けられないケースも存在します。
当院の口腔外科で対応する主な疾患
口腔外科とは、文字通り、お口の中や顎、お顔ならびにそれらに隣接する組織に現れる、様々な病気や異常、外傷などを対象とする歯科医療の一分野です。
主な治療内容
- 親知らずの抜歯
- まっすぐに生えている比較的シンプルなケースから、歯茎の中に完全に埋まっていたり、真横を向いて生えていたりするような、大学病院レベルの難易度の高い抜歯まで、幅広く対応いたします。
- 歯根端切除術
- 通常の根管治療だけでは治癒しない、歯の根の先端にできた病巣を、歯茎側から外科的にアプローチして感染源と共に取り除く治療です。 歯そのものを抜かずに保存するための手段の一つとなり得ます。
- 口腔粘膜疾患の診断
- なかなか治らない口内炎や、お口の中にできた「できもの」、舌の色の変化や痛みなどについて、視診や触診、場合によっては専門的な検査を行い診断いたします。
- 顎関節症の診断と治療
- 「顎が痛む」「口がスムーズに開けられない」「顎を動かすと不快な音がする」といった症状に対して、マウスガードを用いた保存療法や生活習慣の指導などを組み合わせて、症状の緩和を図ります。
親知らず。その歯、抜くべき？ それとも残すべき？
親知らずは、専門的には「第三大臼歯」と呼ばれ、通常は10代後半から20代前半にかけて、お口の一番奥に生えてくることが多い歯です。
現代人は、食生活の変化などに伴い顎の骨格が小さくなる傾向があり、親知らずがまっすぐに生えるための十分なスペースが確保されていないことが多いため、様々なトラブルの火種となりやすいのが実情です。
「抜かずに残す」という選択肢もあります
以下の条件をすべて満たしている親知らずは、無理に抜歯する必要はありません。
- 上下の親知らずが共にまっすぐ正常な位置に生えており、噛み合わせとしてきちんと機能している
- 歯ブラシが奥までしっかりと届き、患者様ご自身で日常的に清潔な状態を維持・管理できている
- 現在、痛みや腫れ、あるいは虫歯や歯周病といった明らかな問題を引き起こしていない
- 手前の大切な歯を押したり、歯並び全体のバランスを崩したりする兆候が見られない
抜歯を推奨せざるを得ないケース
以下のような状態にある親知らずは、たとえ現時点で強い症状が出ていなかったとしても、将来的に深刻な問題を引き起こす可能性が極めて高いと考えられます。
| 親知らずの状態 | 引き起こされる可能性のある問題 |
|---|---|
| 重度の虫歯や歯周病に罹患している | 最も奥に位置するため歯磨きが極めて難しく、一度治療しても再発しやすい傾向があります。また、隣接する手前の歯まで虫歯や歯周病に巻き込まれてしまうリスクが非常に高まります。 |
| 横向きや斜め向きに生え、手前の歯を押している | 親知らずが手前の健康な歯の根を継続的に押し続けることで、その歯の根を溶かしてしまったり、歯並び全体が少しずつ乱れてきたりする原因となります。 |
| 歯の一部だけが歯茎から顔を出している | 歯と歯茎の間に深く清掃が困難な溝ができ、そこに食べカスや細菌が非常に溜まりやすくなります。これが原因で「智歯周囲炎」と呼ばれる歯茎の強い炎症を繰り返し引き起こします。 |
| 噛み合う相手の歯がない | 噛み合う相手が存在しない歯は、時間と共に対合する歯茎に向かって少しずつ伸び出してきます。伸び出した親知らずが向かい側の歯茎を噛んで傷つけたり、噛み合わせ全体のバランスを崩す原因となることがあります。 |
女性の皆様へ：妊娠前の親知らずチェックのすすめ
妊娠中は、女性ホルモンのバランスが大きく変化したり、つわりによって一時的に歯磨きが困難になったりすることから、普段は何ともなかった親知らずが急に痛み出すなど、お口のトラブルが非常に起こりやすくなることが知られています。
しかし、妊娠中は、お腹の赤ちゃんへの影響を考慮し、レントゲン撮影や麻酔の使用、お薬の処方を、できるだけ避けなければなりません。
安心して健やかなマタニティライフを送り、万全の体調で出産に臨むためにも、将来的に問題を引き起こす可能性のある親知らずをお持ちの場合は、できるだけ妊娠を計画される前の体調の良い時期に、一度歯科医院で専門的なチェックを受け、必要であれば抜歯を済ませておくことを強くおすすめしています。
患者様の負担を抑えるために
当院では、親知らずの抜歯をはじめとする外科処置に伴う、患者様の不安や恐怖心、そして身体的なご負担を、可能な限り抑えるため、様々な工夫と細やかな配慮を徹底しています。
グループ全体で1000本を超える実績
ただなわデンタルクリニック グループ全体では、これまでに1000本を超える豊富な抜歯の臨床経験がございます。
この数字は、まっすぐに生えた比較的容易なケースから、顎の骨の中に深く埋まった極めて難易度の高いケースまで、あらゆる状況の抜歯に対応してきた深い知識と確かな技術力の蓄積を意味します。
歯科用CTによる安全性を優先した治療計画
特に、親知らずが真横を向いていたり、歯の根が複雑な形状に湾曲していたり、あるいは下顎の骨の中を通る太い神経や血管に近接している場合など、処置の難易度が高いと予想される抜歯を行う際には、必ず事前に歯科用CTによる精密検査を行います。
CT撮影によって得られる三次元的な画像情報により、親知らずの正確な位置や形態、そして周囲の重要な神経や血管との立体的な位置関係を、ミリ単位以下の精度で詳細に把握することができます。
切開範囲を抑える低侵襲な手技
抜歯処置後の痛みや腫れの程度は、多くの場合、歯茎を切開した範囲の広さや周囲の骨を削った量、そして処置全体にかかった時間に大きく影響されます。
当院では、これまでの豊富な臨床経験とCTによる精密な術前シミュレーションに基づき、歯茎の切開や周囲の骨の切削を、本当に必要な範囲だけに留める低侵襲な抜歯手技を常に心がけています。
痛みを和らげるための丁寧な麻酔
外科処置を開始する前には、必ず局所麻酔を十分な時間をかけて行いますので、抜歯の操作中に痛みを感じることはありません。
また、その麻酔注射を行う際の痛み自体も、可能な限り軽減できるよう努めています。
まず、注射針を刺す部位の歯茎の感覚を麻痺させるための表面麻酔を使用します。
そして、現在使用できる最も細い規格の注射針を用い、電動麻酔器などを活用して、麻酔液を極めてゆっくりとした一定の速度で注入することで、注射時の不快感を抑えるよう細心の注意を払っています。
親知らずの抜歯に関するよくあるご質問
強い炎症が起きている真っ最中に無理に抜歯を行うと、麻酔が効きにくかったり、炎症が周囲の組織に波及して症状が悪化したりする可能性があります。
そのため、まずは抗生物質や消炎鎮痛剤などのお薬を服用していただき、炎症をしっかりと鎮静化させてから、後日改めて安全な状態で抜歯を行うのが一般的な手順となります。
ただし、炎症の程度や全身状態によっては、緊急的な対応が必要な場合もありますので、まずは早めにご相談ください。
親知らずの生え方、歯の根の形、骨との癒着の有無などによって、抜歯の難易度は大きく異なり、それに伴って所要時間も変わってきます。
比較的簡単なケースであれば数分で終わることもありますが、骨の中に深く埋まっているような難症例では、歯をいくつかに分割して慎重に取り出す必要があるため、1時間近くかかることもあります。
事前にCT検査などを行うことで、おおよその難易度と所要時間について、ある程度予測しお伝えすることが可能です。
麻酔の効果が完全に切れてからであれば、お食事を再開していただいて構いません。
ただし、麻酔が効いている間は、お口の中の感覚が鈍くなっているため、誤って頬の内側や唇を噛んでしまったり、熱い飲食物で火傷をしてしまったりする危険性がありますので、必ず麻酔が切れるまでお待ちください。
また、抜歯当日は傷口に負担をかけないよう、できるだけ抜歯した側とは反対側で、おかゆやスープ、ヨーグルトなど、柔らかく刺激の少ないものから食べるようにしましょう。
信頼できる環境で、安心して外科治療をお受けいただくために
外科的な処置には、誰しも程度の差こそあれ、不安や緊張感が伴うものです。
私たち当院のスタッフ一同は、そのお気持ちを深く理解し共感し、治療前の丁寧なご説明とこれまでの経験に裏打ちされた確かな技術をもって、その不安を安心に変えるお手伝いをしたいと心から願っています。
親知らずのこと、あるいはその他のお口の中の外科的なトラブルでお悩みでしたら、どうぞ安心して当院にご相談ください。
